近年、会社や組織のチーム作りに関連して、「心理的安全性」という言葉を耳にする機会が増えたかと思います。Google社が機能するチームを作る条件を明らかにするためのヒューマンアナリティクスを行なった結果、心理的安全性の高さが離職率の低さや収益性の高さと関連していることが明らかになり、心理的安全性は会社や組織チームの活性化を図るうえで今や欠かせない概念となりました。

では、心理的安全性とはどのようなものなのでしょうか?心理的安全性を高めて、会社や組織のチームを活性化するにはどのようにすればいいのでしょうか?本記事では、心理学・行動科学を専門とする臨床心理士の筆者が、心理的安全性を高めて会社や組織のチームを活性化させる方法について解説いたします。

  • 目次
  • 1. 心理的安全性とはなにか?
  •  1-1.心理的安全性の定義
  •  1-2.心理的安全性をおびやかす4つの恐れ
  • 2. Google社の「プロジェクト・アリストテレス」
  • 3. 心理的安全性を高めるには?
  •  3-1. 個人ができること
  •  3-2. チームができること
  •  3-3. 組織ができること
  • 4. まとめ
  • 参考資料
  • 心理的安全性を測定する組織サーベイ

1.心理的安全性とはなにか?

心理的安全性とはなにか?

心理的安全性(サイコロジカルセーフティ:psychological safety)は、1965年に経営学者ウォーレン・ベニスらによる書籍の中で初めて紹介された概念であり、当時は組織変革に個人が適応するための要素として紹介されました1)。その後、1999年に組織行動学の専門家であるハーバード大学のエイミー・エドモンドソンによって「チームの心理的安全性」という概念へと発展した経緯があります。

1-1. 心理的安全性の定義

エドモンドソンは「チームの心理的安全性」について、

「このチームでは対人関係においてリスクのある行動をしても安全であるという、チームのメンバーが共有する信念」 

と定義しています 2)。

では、「対人関係におけるリスク」とはどのようなものを指すのでしょうか?

1-2. 心理的安全性をおびやかす4つの恐れ(リスク)

エドモンドソンは心理的安全性をおびやかす対人関係における恐れ(リスク)として、

  • 無知だと思われる恐れ 
  • 無能だと思われる恐れ 
  • 邪魔者だと思われる恐れ 
  • 批判的だと思われる恐れ  

を挙げています。

つまり、心理的安全性について、より平易に解説するならば、「無知だとか無能だとか迷惑だと思われかねない行動(質問や提案)を自分がしても、このチームの誰も馬鹿にしたり、迷惑がることはないだろうという確信をメンバーが共有していること」といえるでしょう。

心理的安全性の低いチームとは、質問をすれば「そんなことも分からないのか」「自分で調べろ」と言われ、組織のためを思って提案をすれば「じゃあ自分でやって」と業務量を増やされるなど、罰が与えられるリスクが高いチームのことを指します。反対に、心理的安全性の高いチームとは、質問や提案をする際に「無能だ」と馬鹿にされたり、迷惑そうな顔をされるといった罰が与えられるリスクが低く、そうした質問や提案を積極的に受け入れて検討する余地のあるチームのことを指します。後者のチームの方が積極的に発言したり挑戦したり、ミスの報告がしやすくなることから、よりチームとして機能し、仕事の成果に繋がりやすいということを想像できるかと思います。

これらは、これまでであれば「組織の風土」として見過ごされがちであった要素ですが、Google社の組織サーベイによってこの「風土」こそが会社や組織の収益性に大きな影響を与えていることが明らかになったのです。

2. Google社の「プロジェクト・アリストテレス」

プロジェクト・アリストテレス

心理的安全性の概念がこれほどまでに広く知られるようになった理由は、Google社が2012年より開始した「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれるヒューマンアナリティクス(組織サーベイ)において、機能するチーム作りに心理的安全性が大きく関与していると明らかにしたためです。Google社は「機能するチーム」を作る要因を明らかにすることを目的に自社の組織サーベイを行い、そこから明らかになったことは、チームの収益性に影響を与える要因は個人の性格やスキル、経歴などではなく、チームが共有する「規範」にあったということです 3)。

そこからGoogle社はチームの収益性を高める「規範」について調査するため、最新の研究知見の参照を始めました。2010年にScience誌に掲載されたウーリーらの研究によれば、優秀な成果を上げるチームでは、①チームメンバー全員に同程度の発言の機会があった点、②チームメンバー同士が個人的な話や感情を共有していた点、が共通して見られました 4)。反対に、誰か1人が話し続けるような独裁的なチームでは、メンバー全員の個人の能力が高くても、「集合知」は低下し、課題解決能力が低下することが分かりました。

これらの結果からGoogle社は、エドモンドソンが組織行動学の領域で1999年に発表した「心理的安全性」の概念に着目するに至りました。チームの収益性を高めるために、積極的に発言をしても罰を与えられるリスクのない心理的に安全な環境作りを目指すようになったのです。

3. 心理的安全性を高めるには?

心理的安全性を高めるには

さて、では心理的安全性はどのように高めればいいのでしょうか?ここでは心理的安全性を高めチームの収益性を高めるためにできる取り組みを、個人、チーム、組織の3つの視点から紹介します。

3-1. 個人ができること

エドモンドソンはチームの心理的安全性を高めるために個人がまず取り組めることとして、以下の3点を挙げています5)。

  1. 仕事を遂行すべき課題としてではなく、学習すべき課題として捉える。
  2. 自分が間違っているかもしれないということを認める。
  3. 好奇心をもって、積極的に質問する。 

チームとして学習を続けていくためには、質問や提案に対して誰もが不安を感じているということを認識し、意識的に失敗する自由を確保する必要があります。そのため、発言に責任を持たせることを目指すのではなく、自由に発言できる場を設けることが重要になります。

3-2. チームができること

石井(2020)は書籍『心理的安全性のつくりかた』の中で、チームの心理的安全性向上のために、臨床心理学領域において発展したアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)や行動分析学の考え方を適用することを提案しています 6)。

・アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)

ビジネス領域においても「マインドフルネス」という用語が普及しましたが、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)もまたマインドフルネスの精神に基づいたものです。ACTは恐れ不安といった「思考」に絡めとられることなく、自らにとって大切なものへと接近していくための実践となっています。ACTの実践においては、マインドフルネス瞑想などの思考と距離を取るための訓練もさることながら、自らにとって(チームにとって)大切な「価値」を明らかにしていくことが求められ、これらの実践を通して対人関係におけるリスクを受け入れながら目標志向的な行動を取ることが可能になると考えます。具体的には、「こんなこと聞いたら無能だと思われるんじゃないか」「迷惑がられるだろうな」といった思考を抱えながらも、それらの思考に引きずられることなく、真にチームにとって重要であるミスの報告や新たなアイデアの提案などの行動を取れるようになります。

マインドフルネスについては、また別の記事で解説いたしますので、そちらもご参照ください。

・行動分析学

行動分析学とは、人や動物の行動の「予測」と「制御」を目的とした心理学の一体系のことで、「パブロフの犬」や「スキナー箱のネズミ」など、実証性を重視した実験心理学による研究によって発展してきました。行動分析学に根差した問題解決法である応用行動分析(Applied Behaviour Analysis:ABA)は現在においても、たとえば子育て支援や依存症治療、ひいてはペットトレーニングまで、ヒトや動物に関わるありとあらゆる困り事の解決に用いられています。

応用行動分析とは、望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らすための方法論です。(専門用語では、行動が増えることを「強化」、行動が減ることを「弱化」と言います。)望ましい行動を増やすためには、行動の直後にどのような結果(反応)があったかが重要で、その結果次第で本人の行動が増えるか減るかが決定します。基本的には、行動の直後に本人にとっての報酬が増えるまたは罰が減ることで本人の行動は増え(強化)、反対に、本人にとって罰となる結果が増えるまたは報酬が減ることで本人の行動は減ります(弱化)。

心理的安全性を高めることの目的はチームにとって望ましい行動(ミスの報告や、分からない点の質問など)を増やすことなので、チームメンバーがこうした行動を取った際に周囲がどのような反応を取るかが鍵となります。まずはチームの風土を見直すという意味で、望ましい行動の後にどのような報酬が与えられ、どのような罰が与えられているか観察することから始めるのが良いでしょう。

仕事に活かす行動分析学の考え方については、また別の記事で解説いたしますので、そちらもご参照ください。

3-3. 組織ができること

Google社のヒューマンアナリティクス(組織サーベイ)では、機能するチームを作るために、メンバーが以下の5つの指標をどの程度強く感じているかを測定すべきだとしています7)。

  1. 心理的安全性  「チームの中でミスをしても、非難されることはない」
  2. 相互信頼   「メンバーは引き受けた仕事を最後までやりきってくれる」
  3. 構造と明確さ  「チームには、有効な意思決定プロセスがある」
  4. 仕事の意味  「チームのためにしている仕事は、自分自身にとっても意義がある」
  5. インパクト  「チームの成果が組織の目標達成にどう貢献するかを理解している」

ヒューマンアナリティクス(組織サーベイ)の実装にあたっては、これらの指標の重要性をメンバー全員に理解してもらった上で、これらを継続的に測定します。そして、得られたデータをもとに、上司や部下の垣根を超えて、より良いチーム作りのための話し合いをすることを推奨しています。

もちろん、話し合いの場では発言の内容によって批判したり、悪い評価を与えるようなことがないことを明示する必要があります。

4.まとめ

心理的安全性まとめ

いかがだったでしょうか?本記事では、心理的安全性を高めて会社や組織のチームを活性化させる方法について、臨床心理士が解説いたしました。心理的安全性とは、チーム内の対人関係においてリスクのある行動をとることができる状態をさし、メンバーが萎縮せず自由に質問や提案をできることはチームとしての学習を促進します。そしてその実装にあたっては、心理的安全性の重要性についてメンバー全員で共有すること、また定期的な組織サーベイなどを通じてより良いチーム作りのための話し合いの場を設けることなどが大切であることを解説いたしました。

本記事をきっかけに心理的安全性の重要性と実装に関心を持っていただき、会社や組織のチーム作りの参考としていただければ幸いです。

執筆・監修:四方陽裕(臨床心理士・公認心理師)

心理的安全性を測定する組織サーベイ

本記事で紹介された「心理的安全性」を測定するための組織サーベイとして、Fairwork surveyがあります。Fairwork surveyでは、心理的安全性をはじめとした健康経営に必要不可欠な指標を調査し、社員の皆様が活き活きと最高のパフォーマンスを発揮することができる企業づくりをご支援いたします。

参考資料

  • 1) Schein,E.H. & Bennis, W.G. (1965) Personal and organizational change through group methods: the laboratory approach. New York: John Wiley & Son.
  • 2) Edmondson, A.(1999) Psychological safety and learning behavior in work teams, Administrative science quarterly, 44, 2, 350-383.
  • 3) Duhigg, C. (2016) What Google learned from its quest to build the perfect team.  New research reveals surprising truths about why some work groups thrive and others falter. The New York Times Magazine,(2016 / 2/25).
  • 4) Woolley, A.W., Chabris,C.F., Pentland,A., Hashmi, N., Malone, T.W.(2010)Evidence for a Collective Intelligence Factor in the Performance of Human Groups, Science 330, 686.
  • 5) https://youtu.be/LhoLuui9gX8
  • 6) 石井遼介(2020)心理的安全性のつくりかた, 日本能率協会マネジメントセンター.
  • 7) https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/help-teams-take-action/