【専門家解説】マインドフルネスとは?マインドフルネス瞑想のやり方と効果について
現代社会は激変の時代です。インターネット、SNSの普及によって1日に触れる情報量は膨大に増え、さらにコロナ禍以降はリモートワークの普及により仕事とプライベートの切り替えが困難になりました。
考えることが多く、なかなか気が休まらず疲れてしまう方も多くおられるでしょう。
本記事では、こうした現代社会の中で疲弊することなく生きていくために役立つ「マインドフルネス」という概念について、臨床心理士が解説いたします。
マインドフルネスは本来、仏教における「禅」の思想に端を発しています。
現代では、臨床心理学領域においてうつ病や不安症の軽減についての研究が進められ、ビジネス領域においても集中力の維持や生産性向上などの目的で着目されています。
筆者はこれまで、精神科クリニック等でマインドフルネスに根ざした心理療法を提供してきました。
本記事では、マインドフルネスがもたらす効果やその実践法についてわかりやすく解説しますので、ご参考にしていただければ幸いです。
【マインドフルネスの潮流】
まずはじめに、「マインドフルネス」の潮流には大きく分けて3つの流れがあるといえます。
1つ目に”スピリチュアル領域”、2つ目に”医療領域”、そして3つ目に”ビジネス領域”です。
まずは、これら3つの領域でマインドフルネスがどのように着目されてきたのかを解説いたします。
➢ スピリチュアル領域
マインドフルネスという用語はもともと、仏教用語のサティ(特定の物事を常に心に留めておくこと)を訳したものです。
「色即是空」という言葉で言い表されるように、仏教においては、無常や無我こそが真理であるとする基本的な教義があります。
そしてそれらの基本的教義を体験的に理解するための実践として、座禅やヴィパッサナー瞑想などの修練を行います。
修練を通じて、「自分の存在は今この瞬間にのみ存在するものであり、周囲との関係性によって形成されている曖昧で実態のないものである」という意識を体験的に理解するのです。
➢ 医療領域
医療領域におけるマインドフルネスの発展は、1979年にジョン・カバット・ジンがスピリチュアルの要素を廃したマインドフルネスストレス低減法(Mindfulness-based stress reduction:MBSR)を開発したことに始まります。1)
その後、1991年にはティーズデールらがマインドフルネスをうつ病の治療に応用したマインドフルネス認知療法(Mindfulness-based cognitive therapy:MBCT)を開発します。2)
これらのマインドフルネスに基づいた介入は臨床研究においても、慢性的な痛み、うつ病、摂食障害、 喫煙などの生活習慣といった多様な健康問題において有用性が認められています。3)
また近年、マインドフルネスに対する神経学的な理解として、デフォルトモードネットワーク(DMN)が注目されるようになりました。
人の脳活動を調査すると、人は休んでいるときも絶え間なく頭を働かせていることが分かり、これらはデフォルトモードネットワークと呼ばれます。
デフォルトモードネットワークは、いわば脳のアイドリング状態に喩えられ、これらが過剰に働きすぎている状態に対して、マインドフルネス瞑想が有効であると考えられています。4)
➢ ビジネス領域
2000年頃より、マインドフルネスはビジネス領域でも注目されるようになりました。
Googleは2007年より、リーダーシップや集中力向上を目的としたSIY(Search Inside Yourself “内面の探索”)というマインドフルネス研修プログラムを開発しており、多くの企業で同様のマインドフルネス研修プログラムが採用されるようになりました。5)
また、米国の医療保険会社「エトナ」においても、社内で瞑想教室を開いた結果、社員のストレスレベルが28%、睡眠の質が20%、痛みが19%改善した報告があります。
さらに、仕事の効率も向上し、週平均62分にあたる生産性が向上しており、これは従業員一人当たり年間3,000ドルの価値があるとエトナは推定しています。6)
このように、ビジネス領域においても、マインドフルネスは心身不調による生産性の低下の阻止、集中力の向上を目的に普及していることが分かります。
【マインドフルネスとはなにか?】
上記のように、マインドフルネスの流行にはそれぞれ異なる潮流があり、異なる目的があります。
では、マインドフルネスとは一体どのようなものなのでしょうか?
一般に、マインドフルネスは「今ここでの経験に、評価や判断を加えることなく、能動的な注意を向けること」と説明されます。
また、精神科医の熊野(2020)は、マインドフルネスについて、
「今この瞬間の「現実」に常に気付きを向け、その現実をあるがままに知覚し、それに対する思考や感情には囚われないでいる心の持ち方、存在の有様」7)
と表現しています。
ここで強調されているのが、
・現実をきちんと感じ取っている状態、心の持ち方をマインドフルネスという
・マインドフルネスの練習を続けていくと、だんだん生き方自体(存在)がそのような有様になっていく
・「現実をきちんと感じ取る心の持ち方」をし、「そういう生き方が身についてくること」まで含めての「マインドフルネス」である。
という点です。
マインドフルネスな状態を目指すうえでは、
①今この瞬間に感じていることに十分に気付きを拡げられている状態
②1つ1つの思考や感覚に囚われすぎず、適度にこれと距離を取れている状態
を意識することがよいでしょう。
【マインドフルネスのメリット】
上記を読んでいただくと、生活にマインドフルネスを取り入れるということは、即時的な効果を得るということだけではなく、生き方全体がそのようなものに変容していくのだということをご理解いただけるかと思います。
一方で、マインドフルネスを継続的に生活に取り入れていく中で、以下のような即時的なメリットを体験される方もおられるかもしれません。
・集中力が増す
・作業のメリハリがつくようになる
・心配や後悔などの「考え」にとらわれ過ぎなくなる
・ストレスが軽減する
・寝つきが良くなる
注意すべき点としては、マインドフルネスに対して目的志向的になりすぎると、あるがままの気づきを阻害したり、かえって逆効果になってしまう可能性も考えられます。
なのでこれらはあくまで、マインドフルネスを実践するうえでの副次的な効果と捉えるのがよいでしょう。
【マインドフルネス瞑想のやり方】
マインドフルネス瞑想は、マインドフルネスを体験的に理解するうえで、もっとも取り組みやすいエクササイズだといえます。
先述の通り、マインドフルな状態を意識するうえでは、
- 今この瞬間に感じていることに十分に気付きを拡げられている状態
- 1つ1つの思考や感覚に囚われすぎず、適度にこれらと距離を取れている状態
が重要となります。
これらを踏まえたうえで、実際に瞑想のプロセスに移りましょう。
➢ マインドフルネス瞑想を行う「環境」
マインドフルネス瞑想を行ううえで、環境の制限はありません。
しかし、マインドフルネス瞑想は気づきを拡げていく実践なので、適度な音や刺激があり、かつ落ち着ける場所の方がふさわしいでしょう。
あまりにも騒がしい場所や、反対に、無音すぎる場所では実践するうえで難しさがあるかもしれません。
無音の室内で行う場合は、窓を開けたり、youtubeで森の音を流してみるなど、適度な刺激を作る工夫をしてみるのも良いと思います。
➢ マインドフルネス瞑想を行う「姿勢」
瞑想をするうえでは一般的に、「座禅を組む」、「背筋を伸ばす」などが推奨されます。
これらの姿勢は気づきを広げるうえで重要ですが、その一方で、こうした姿勢自体は本質的な問題ではありません。「どのように行うか」よりも「どのように感じているか」の方がより重要です。
座禅を組んでもよいですし、楽な姿勢で椅子に腰かけていただいても構いません。就寝前にベッドに横になった状態で行っても大丈夫です。
色々な姿勢を試していく中で、無理なく継続して取り組めるご自身に合った姿勢を見つけていただくのが良いでしょう。
➢ マインドフルネス瞑想を行う「教示」
マインドフルネス瞑想を行ううえでの教示の例を記載します。
これらは正確に行っていただく必要はございません。
「間違えのないように、正確に行おう」という〝思考“に囚われてしまっては本末転倒です。
あくまでひとつの目安としていただき、毎日繰り返し行なうことで、教示を見ずとも自分ひとりで実践できるようになるのが良いでしょう。
- 目を閉じて、楽な姿勢を取りましょう。
椅子に腰かけても、横になっていただいてもかまいません。 - 呼吸に注意を向けます。呼吸はそのまま、楽に続けていれば大丈夫です。
鼻・口を通って空気が出たり入ったりする感覚、お腹が膨らんだり縮んだりする感覚に気づいていきます。
空気が身体を出たり入ったりしていることを、ただそのままに感じます。 - .呼吸に注意を向けていると、頭の中にいろいろな“雑念”が次々と湧いてくることに気づくかと思います。
あるいは不快な身体感覚に気づくこともあるかもしれません。
「このやり方で正しいんだろか?」「どれくらい続ければいいんだろう?」「全然集中できない」「そわそわしてくる」「気持ち悪い」などなど、、。 - 正解・不正解はありません。100%の集中を維持する必要もありません。湧いてきた「思考」はすべて、そのままの形で置いておきます。頭の中から打ち消したり、感じないよう努力する必要はありません。
これらに気づいたら、ふたたび、呼吸に注意を戻していきます。
呼吸の感覚を、ただそのままに感じます。 - 雑念や不快な身体感覚に気づいてそれをそのままにしておくこと、呼吸に注意を戻すことに慣れてきたら、今度は注意をより拡げていきます。
呼吸を感じたまま、五感で感じられる他の感覚を拾ってきます。
たとえば、部屋の空調の音や、風が頬を撫ぜる感覚、椅子にお尻が振れている感覚や、外で会話している誰かの声など。
呼吸は呼吸で感じながら、他の感覚も同時に感じているような状態です。 - 呼吸の感覚を感じたまま、他の感覚にも十分に気づくことに慣れてきたら、呼吸にしっかりと注意を戻してから、目を開けます。
【最後に】
マインドフルネスの価値とは、非常に逆説的なものです。
一般に、「集中力を高める」、「ストレスや苦痛を軽減する」などが目的とされますが、実はそうした自身の感じるものをコントロールしようとする終わりのない努力を手放し、現状をあるがままに受け入れる姿勢を身に着けることこそが、マインドフルネスが本来目指しているところだからです。
しかし、マインドフルネスの営みを通じて、結果的に多くの効果を体験される方がいらっしゃることもまた事実です。
これからマインドフルネスを生活に取り入れようと考えておられる方は、習慣としてマインドフルネスを実践し、今ここにある気づきを広げていくことをおすすめします。
マインドフルネスの実践は、今回ご紹介したマインドフルネス瞑想だけでなく、あらゆる場面で意識すれば取り入れられるものです(たとえば、食事の際に味や匂いや食感をゆっくり味わう、帰り道に空を見上げる、シャワーの温度や質感に注意を払う、などなど)。どのような形であれ、ご自身にとって行いやすい方法で、マインドフルネスを体験的に実践していただければ幸いです。
本記事では、気の休まらない現代社会において、マインドフルネスを生活に取り入れることの意味や、その実践方法について臨床心理士が解説いたしました。本記事が、生活にマインドフルネスの実践を少しずつでも取り入れ始めるきっかけとなれば幸いです。
監修:四方陽裕(臨床心理士・公認心理師)
【参考資料】
- 1) ジョン・カバット・ジン(著), 青木豊(訳)(2007)『マインドフルネスストレス低減法』, 北大路書房.
- 2) Z・V・シーガル, J・M・G・ウィリアムズ, J・D・ティーズデール(著), 越川房子(監訳)(2007)『マインドフルネス認知療法 うつを予防する新しいアプローチ』, 北大路書房.
- 3) 春木豊, 石川利江, 河野梨香, 松田与理子 (2008)「マインドフルネスに基づくストレス低減プログラム」の健康心理学への応用, 健康心理学研究, 21, 2.
- 4) Brewer, J.A., et.al., (2011) Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity, Proceedings of the National Academy of Sciences, 108,50.
- 5) チャディー・メン・タン(著),柴田裕之(訳)(2016)『サーチ・インサイド・ユアセルフーー仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法ーー』, 英治出版.
- 6) David Gelles(2015)At Aetna, a C.E.O.’s Management by Mantra, The New York Times, Feb, 27.
- 7) 熊野宏昭(2020)『実践!マインドフルネスDVD 体験に気づき、反応を止め、パターンから抜け出す理論と実践』,株式会社サンガ.
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