【産業医監修】「健康投資管理会計 実践ハンドブック」を解説!
経済産業省は、健康投資管理会計ガイドラインと同時に、実践ハンドブックも公表しています。
実践ハンドブックでは、健康経営をより継続的かつ効率的・効果的にするための手法が描かれています。
効果分析や評価手法を模索している企業にとって大きな助けとなる可能性が高く、参考にしてみるとよいでしょう。
今回は、健康投資管理会計に関する実践ハンドブックの内容について、分かりやすく解説します。
【健康投資管理会計 実践ハンドブックの位置づけ】
健康投資管理会計実践ハンドブックは、すでに健康経営に関する取り組みを始めている企業向けに作成されています。
主に下記の「ステップ3」および「ステップ4」向けのツールだと理解しておきましょう。
- ステップ1:健康経営をまだ始めていない企業
- ステップ2:健康経営を始めたばかりの企業
- ステップ3:健康経営のPDCAを回している企業
- ステップ4:健康経営の効果や評価を社会開示している企業
ステップ1およびステップ2の企業については、「企業の健康経営ガイドブック」や「健康経営度調査票」の参考が推奨されています。
健康経営に関する基本的な概要を理解するとともに、組織体制・施策・PDCAの意識などを学べるため、活用していきましょう。
ステップ3の企業については、実践ハンドブックを活用することで内部管理手法が学べるようになっています。
適切な経営判断のもとで健康経営ができるようなヒントが盛り込まれているため、主にPDCAの回し方や効果測定について学びたいときに便利です。
ステップ4の企業については、健康経営について外部と適切に対話するための参考として実践ハンドブックを活用するとよいでしょう。
ステークホルダーはもちろん資本市場全体から評価される企業になるための、一歩踏み込んだ戦略が立てられます。
ステップ3の企業は内部機能の拡充に、ステップ4の企業は外部機能の拡充に使うのが理想的です。
【健康経営における戦略マップとは?】
(引用:経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課「健康投資管理会計 実践ハンドブック」より)
健康経営戦略を組み立てるにあたって特に重要視されているのは、ストーリー立てされた戦略マップです。
自社が解決したい経営課題を特定し、課題を解消するための施策を練ることが大切です。
実践ハンドブックでは健康経営戦略のストーリーを可視化するためのツールとして、上記のような戦略マップの一例を提唱しています。
下記でひとつずつ事例をチェックしていきましょう。
なお、今回紹介する事例の最終目標は全て「個人のパフォーマンスの向上」であり、目標が同じでもさまざまな施策があることが分かります。
事例①:食事セミナーの実施
健康投資施策を「食事セミナーの実施」とした場合、第一に現れる健康投資効果は「食事セミナー参加率の向上」だと定義できます。
取り組み状況が向上している段階であり、これが進めば次のフェーズである従業員の意識変革・行動変容に移りやすくなるでしょう。
具体的には、栄養バランスに気を配った食事をする、欠食をせず3食しっかり食べるようになるなど、健全な食生活を送る従業員の割合が増加します。
従業員の意識変革が起これば、目標指数の達成に近づきます。
健康診断における要受診率・再検査率が低下し、アブセンティーズム(欠勤・遅刻・早退・退職)が減らせるのです。
最終的に「個人のパフォーマンスの向上」につながり、企業にとっても従業員にとっても実のある取り組みとなります。
事例②:生活習慣改善に関するメール配信
健康投資施策を「生活習慣改善に関するメール配信」とした場合、はじめに意識すべきことはメールの閲覧数向上です。
ただ配信しっ放しにするのではなく、閲覧数・開封率・通読率などを可視化できる形式で配信すると後々のPDCAサイクルに役立つでしょう。
メールの内容に高い共感を得られれば、適正な範囲での飲酒習慣・運動習慣・睡眠サイクルの正常化など各々が健康を意識し始めます。
この積み重ねにより、健康診断に現れる数値以外の「主観的な健康観」が改善されます。
つまり、慢性的な睡眠不足や栄養バランスの崩れによる胃腸のムカつきなど、仕事を欠勤するほどでもない体調不良(プレゼンティーズム)の解消につなげられるのです。
本人ですら気づきづらい体調面の悩みを解消できれば、自然と業務パフォーマンスも向上していくでしょう。
事例③:営業支援システムの導入
健康投資施策を「営業支援システムの導入」とした場合、残業・休日出勤などの低下を狙うのが第一歩です。
オンラインで日報を書けたりチャットツールで報告・連絡・相談できる体制を整えたりすれば、外回り後に帰社する必要がありません。
直帰することによる業務負荷軽減が狙え、ワークライフバランスの充実につながるでしょう。
結果的に睡眠時間の増加・ストレス反応の改善が見られるようになり、「働くことが楽しい」というワーク・エンゲージメントの向上に貢献します。
エンゲージメント高く仕事ができればモチベーションも上がりやすく、会社への貢献心も育ちます。
【健康経営と経営課題のストーリーを組み立てるポイント】
健康経営の有効な施策を考案し確実なPDCAサイクルを回すには、前述のようなストーリー立てをすることが効果的です。
イメージ通りの戦略マップができれば施策を可視化しやすく、自社がどこでつまづいているのか、最終的なゴールが何なのか見失わずに済むでしょう。
ここでは、健康経営のストーリーを組み立てる際のポイントを紹介します。狙い通りの施策にしていくために、ご参考ください。
➢ ひとつの施策が複数の効果につながることを意識する
ひとつの施策によって現れる効果がひとつであるとは限らず、実は複数の効果となることも多いです。
前述した図表でも見られた通り、「ストレス反応の改善」というひとつの指標が「アブセンティーズムの低減」「プレゼンティーズムの低減」「ワーク・エンゲージメントの向上」と3つの効果に矢印が向いています。
間接的な因果関係があることを意識し、より複数の効果を得られるよう戦略マップを作ってみるとよいでしょう。
しかし、欲張りすぎてありとあらゆる効果を戦略マップに盛り込んでしまうと、却って複雑になり分かりづらくなってしまいます。
自社が抱えている課題にマッチした効果にのみ焦点を当てるのみで十分であり、目標とのズレが生じないよう対策していくことが大切です。
➢ 解決すべき経営課題から明確にする
(引用:経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課「健康投資管理会計 実践ハンドブック」より)
戦略マップ上で健康経営のストーリーを組み立てるには、まず自社が解決すべき経営課題から明確にするとよいでしょう。
健康投資の内容は幅広く、効果がありそうだと感じられるものについては全て施策として成立します。
そのため、上記の図のように同じ「喫煙施策」という健康投資であっても、最終的なゴールが「生産性の向上」であったり「従業員満足度の向上」であったりと、異なることが分かります。
施策から考え始めると目標をどこに着地すべきか見えづらくなりますが、先に目標を定めておけば逆算するような形で施策を考案しやすくなることがポイントです。
下記のようなフローを構築しておけば効果的な戦略マップを組み立てられることが多いため、参考にしていきましょう。
- 健康投資の目的を明確にする
- 健康課題を可視化する
- 健康課題解決のための施策を考案する
- 健康投資効果ごとに理想像を細分化する
- 定期的にPDCAを回しながら改善を図る
健康投資を考えるうえで、特に頭を抱えやすいのは施策の内容・実行方法です。
しかし施策ばかり考えていると本来の目標を見失いやすくなるため、はじめから戦略マップ上に書き起こし、常に意識できるよう対策しておくことをおすすめします。
【まとめ】
健康投資を成功させるには、ストーリー立てされた戦略マップづくりをすることが近道です。
健康投資管理会計ガイドラインだけでなく実践ハンドブックも参考に、自社に合った戦略を立てていきましょう。
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