【これからの健康経営を考える】中編
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※インタビューは2020年4月6日に都内にて行われました。
(聞き手:株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介)
【アブセンティーズムとプレゼンティーズムとは?】
―――まず、アブセンティーズムとプレゼンティーズムの用語について教えてください。
これらは、WHO(世界保健機関)によって提唱された、心身の健康問題に起因したパフォーマンス低下を表す指標です。
「アブセント;Absent」という英単語は中学2年生くらいで習うようですが、アブセンティーズム;Absenteeism は、健康問題による欠勤や病欠を意味しており、対するプレゼンティーズム;Presenteeism とは、出勤はしているため勤怠管理上は顕在化しないものの、健康問題が理由で労働生産性が低下している状態を指します。
―――アブセンティーズムについてもう少し詳しく教えてください。
例えば、標準的な労働者で年間240日働くとして「体調不良で仕事を休んだ日が過去1年間に何日ありましたか」というアンケートを取り、平均が3日だったとします。240日のうち3日休むと80分の1となるので、80分の1は自身の健康問題による欠勤と考えます。
労働者が240人の工場があるとすると、その工場では毎日平均3人が休んでいることになり、年間では3人×240日=720人・日の労働力が失われていますね。金額にすると1500万円くらいでしょうか。そうすると例えば2年計画でこの損失を2割、300万円削減するために何をすれば良いか、などの計画は立てやすくなりますよね。
アブセンティーズムは労使ともに目に見えやすい損失ですが、業務に携わる機会が減少するため、結果としてチームや組織の業務生産性や業務効率が落ちる要因になると考えられています。
―――次にプレセンティーズムについてもう少し詳しく教えてください。
プレゼンティーズムとは、「出勤はしているけれど、心身のコンディションが今ひとつで、パフォーマンスが上がらないことによる労働生産性の低下」です。
例えば、腰痛や頭痛・花粉症のために仕事に集中できなかったり、メンタル面の不調からビジネス上の判断が難しくなったりするケースなどが挙げられます。生理痛や睡眠障害・二日酔いなど、心身のコンディションが万全でない状態で働くこともプレゼンティズムの一種と言えますし、これらは業務上のミスの増加はもちろん、作業効率や集中力低下の原因となります。
日本を含む各国で研究されていることですが、実はプレゼンティーズムはアブセンティーズムの約5倍から20倍もあると言われています。これは驚くべき数字ですよね。アブセンティーズムによる損失が年間労働日数240日のうち3日とすると、計算上はプレゼンティーズムによる損失が15日から60日にものぼることになります。
プレゼンティーズム注目の背景
―――プレゼンティーズムが注目されてきた背景は何でしょうか?
以前お話したように、日本のような国民皆保険制度のないアメリカでは、従業員の健康保険料の多くを企業が負担します。なので企業側からすると、従業員が出社している以上は、心身共に良好なコンディションでしっかりと働き成果を上げてもらいたいし、従業員側も、失業すると無保険となるリスクがあるため、自身の体調管理や業務のアウトプットは意識せざるを得ない。
日米で比較した場合に、アメリカ人ビジネスパーソンのウェルネス意識の高さや、スポーツジム・ジョギング・ヨガなどを通じた健康投資への積極性に大きな差がある理由は、雇用慣行や社会保険制度の違いが影響しているものと思われます。
日本でここ数年推進されてきた健康経営によって、個人の生活習慣が改善し、欠勤等のアブセンティーズムが減少する、また良好なコンディションで労働参加することで生産性が改善しプレゼンティーズムも解消し、幸福に社会参加する人が増える。
経済産業省が、これまで「目に見えにくい損失」であったプレゼンティーズムに着目し、健康投資管理会計ガイドラインなどでその「見える化」を推進するのも、このあたりが理由かと思われます。
【エンゲージメントとは?】
―――エンゲージメントとはどのようなものでしょうか?
もともとは、婚約・契約・債務といった意味ですが、ビジネス用語としてはマーケティングならびにHR・組織開発の分野で用いられます。
マーケティング領域では、顧客が企業やブランド・商品・サービスなどについて抱く愛着や親近感を指し、人事領域では、組織に対する従業員の愛着心や会社組織と従業員の間の絆、と言った意味になります。
心理学や経営学の分野では、時代と共に主流となる考え方は、職務満足・従業員満足・モチベーション・エンゲージメントなどなど変遷してきたようですが、労働を介した組織と個人の関係性においては、私も現在のエンゲージメント理論が最もしっくりくる、との印象を持っています。
弊社も含め、多くの現代の会社組織は、創業理念を旗印として掲げ、組織として生き残りつつ、いかに理念を実現していくか、を追い求めているわけです。また働く個人にとって会社組織とは、人生の少なからぬ時間を捧げる経済的基盤あるいは自らの社会参加の舞台となりますので、当然そこには経済的のみならず心理的満足が求められます。
したがって、エンゲージメントとは言い得て妙で、労使がお互いに抱く親近感や愛着、果ては婚約といった意味を内包するのも頷けますね。
―――なぜ最近エンゲージメントが注目されているのでしょうか?
情報化社会の急速な進展に伴い、現代の会社組織と従業員の関係、つまり法人と個人の関係性は、エンゲージメントまで深掘りをしないと、揺るぎかねない時代になってきたのだろうと思います。
「法人」も「個人」も法律上は人格を持ちますが、すでに物質的にはある程度満たされている現代社会においては、社会参加の舞台としての職場に、「法人」と「個人」間の感情的・心理的な紐帯が求められている、ということでしょう。エンゲージメントの語源は「誓いの中に入れる」という意味のようですが、個人にとって「入社」の意味合いも、以前とは異なってきているのでしょうね。
精神科医として世の中を見ていると、社会参加の意味や会社組織に所属して価値を生み出すことの意義は何だろう、と模索している人が多くなってきたように感じます。特定の組織に所属し、自分の人生の大切な時間を会社に捧げ、対価を受け取る意義とは何か、ということを、おそらくひと世代前に比べると、ずっと真剣に考えるようになった。
そのような背景から、労使ともに相手に求めるコミットメントや、ベクトルがどれほど合っていてどれくらい互いに貢献してもらえそうか、を意識することが、重要になってきていると思います。エンゲージメントが、労働安全衛生法で義務づけられているストレスチェックにおいて、次の標準質問セットとの呼び声高い80問版では測定できるようになるのも、時代の必然と感じています。
【幸福度とは?】
――― まず幸福度に関連して、そもそも「幸せ」とは何でしょうか?
「幸せ」については、太古の昔から多くの先人たちが考察を深めてきましたし、私が定義するのもおこがましいのですが、言うまでもなく、その時代・文化・あるいは本人の性格により「幸せとは」に対する答えは大きく異なるでしょう。
きっと傍目にはとても幸せに見える人たちでも、本人に向かって「幸せですか」と聞くと「いや、こういった理由で不幸せなんです」と答えたり、その逆のケースもあるでしょうね。
いまこうやって話しながら思い出したのは、トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』の冒頭部分、「幸せな家族はいずれも似通っているが、不幸な家族にはそれぞれの不幸な形がある」というフレーズです。
正直に言うと私はこの小説を読んだことはないのですが(笑)、昔の勤務先で幸せと不幸せをめぐって精神科医の大先輩と話していた際にこの言葉を教えていただき、以後ずっと頭から離れないのです。精神を病む人びとと相対している精神科医にとっては、とてもしっくり来る言葉のように感じます。
ところで2011年にブータンの国王が来日された際、国民総幸福量(Gross National Happiness, GNH)という言葉が国内でも一般に知られるようになりました。同国では実に50年近く歴史のある政策上の尺度だそうです。
日本でもちょうどその頃から、内閣府が幸福度に関する研究会を立ち上げて幸福度の指標を作ろうとしていました。詳細は譲るとして、幸せについて私たちが語ろうとするとき、幸せとはその人の心の中にあるもの、というように現代の日本人の感覚からすると少し宗教じみたものとなったり、そもそも幸せは客観的に測れるものなのか、というふうに話が大きくなってしまいがちです。
文化や時代に応じた幸せを、時代の変遷まで含めて考えなくてはいけませんね。少なくとも幸せには、主観的幸福度として個人に質問して測定できる部分と、国民の購買力や安全性や医療体制などで客観的に測ることが可能な部分があります。
例えば日本人は、世界的にトップレベルの清潔な環境で生活し、それほど汚職のない社会を当たり前に享受しています。逆に通勤時間は長く、家族団らんの時間は少なく、昇進や昇給は年功序列的で、組織の生産性は低いと指摘されていますが、それらが我慢ならないほど自らの幸福を阻害している、と考える人は、まだそれほど多くない。
感覚的にですが、幸せとは、個人の満足と社会の厚生のバランスを取りながら追い求めるもの、でしょうから、個人と社会・組織間のエンゲージメントがますます重要になると思います。
このところ毎年のように国別の世界幸福度ランキングが公表されますが、個人的には、日本はランキングされているほどは悪くないはずなんだけどなぁ、と感じています。それは私が「誰もが幸福に社会参加する世界を創りたい」と思っているからなのでしょうが(笑)。
幸福度と健康
――― 幸福度と健康の関係について教えてください。
健康をウェルビーイングと捉えるならば、幸福と健康の関係は非常に近いと考えます。
例えば医療の世界において、病気になった人びとを健康な状態にして、元の社会生活や家庭生活に戻すのが臨床医の仕事です。健康が幸福の1つの条件とすると、患者さんの幸せを回復することが、本来の医者の仕事なのではないかと思います。
そう考えると、私が従事している臨床医の仕事も、産業医の仕事も、社員幸福度を見える化するパルスサーベイの仕事も全て繋がっています。
健康は幸福のかなり大きな部分を占めることは自明に思えますし、逆にもし患者さんが健康を回復したのに幸福でないとしたら、医師は先ほどのアンナ・カレーニナに立ち返って考えるべきなのかも知れません。
幸福度と仕事
――― 幸福度と仕事の関係について教えてください。
日本人にとって、仕事をすることは幸福度と非常に強い結び付きがあるように思えます。
例えば、諸外国と比べると、日本人は定年後も社会参加としての勤労意欲を強く持つ方が多いようです。自らの社会での居場所を確認し、人から必要とされている、みんなの役に立っている、という思いを実現させたいのです。
もちろん、ある程度のお金は必要ですが、日本人にとっては、人に喜ばれ、何かしらの価値を提供することで感謝されることが非常に重要なのだと思います。人生100年時代を考えるとき、この国民性がプラスに働くような制度設計が必要ですね。
健康経営と幸福度
――― 健康経営と幸福度の関係について教えてください。
経済産業省の「健康投資管理会計ガイドライン」の中で従業員の幸福度調査が提案されていたり、健康経営をリードしている学者も、「幸福度の高い労働者ほど生産性が高いのか?」に注目しています。
今後も、ひとびとの幸せな社会参加支援において、企業が大きな役割を担いつづけるでしょうから、企業理念の旗印のもとに集まってくれている社員に、いかに幸せになってもらうかということは、健康経営において非常に重要であると考えます。
【健康投資のメリットは?】
―――健康投資の推進により、企業にはどのような経済的リターンがあるのでしょうか。
健康投資の経済的リターンについては、ジョンソン・エンド・ジョンソンの研究が有名です。
同社は、第2次大戦中に制定したクレド(信条)の中で安全で衛生的な職場環境に言及し、「社員の衛生、安全、および健康に関するガイダンス」を掲げていました。同社はそれをいかに実現するかということに対して、たゆまぬ努力をしてきた企業であると評価されています。
グローバル企業である彼らは、全世界で働く従業員に対する健康投資の調査をした結果、約3倍のリターンがあるというエビデンスを出しました。これは論文としてもアクセプトされており、医療経済学的な評価を得ています。近年は日本企業でも同様の研究で似たような結果が出ており、やはり3倍程度のリターンがあるとされています。
もちろん、企業が健康投資の果実を得るまでにはある程度の時間がかかりますし、一時的にせよ支出が増える部分もあるのですが、近年注目されているSDGの流れに沿って社会を変革していく運動としては、非常に大きな意義があると思います。
企業の業績との関係性
―――健康投資により企業の業績はアップするのでしょうか?
最近、何人かの専門家の方に話を伺ったところ、業績との関係性は、実は現時点で明確には分からないのだそうです。私も、短期利益などの業績そのものにはダイレクトに結び付かないと思っています。
しかし、企業価値という意味では、大きな意味があると感じています。
短期的な利益には結び付かないかもしれないし、すぐに目に見える成果としては見え難いかもしれないけれど、従業員に幸せに働いてもらう、幸福な社会活動を送る従業員を増やし、企業自身も「良き企業市民」であろうとする、という意味において、健康投資には価値があると思います。
各企業がガバナンスの健全性や、世界にもたらす良き価値などを通じて、間接的にかもしれませんが、業績との関係性も証明されていくのではないかと思います。
労働市場との関係性
―――労働市場と健康投資の関係性を教えてください。
経済産業省と東京証券取引所が出しているデータで、就活生と就活生の親世代に対する、就職先に望む勤務条件等のアンケート調査があります。
大変興味深い結果ですが、就活生の親世代で1位だったのが、「(自分の子どもには)従業員の健康や働き方に配慮している」企業に就職してほしいという回答です。就活生自身へのアンケートにおいても、この項目は2位でした(1位は「福利厚生が充実している」)。
おそらく親世代は50歳前後で、自身の健康問題が気になっていたり、身の回りに自らの健康を害したり親の介護を担ったりして思う存分に働けない同僚がいらっしゃるのでしょう。
この結果をみても、人生100年時代を迎える今、長期に亘り職場で能力を発揮し、地域社会の一員として社会参加し、世の中に価値を提供することが幸せな人生である、との認識が広まってきていると感じます。
人的資源に対する適切な健康投資をおこない、健康経営優良法人などの認定を取得することは、優秀な人材獲得を目指す採用ブランディングにおいて、有効な手段であると考えられますね。
【厚生労働省の取組みについて】
―――健康経営に関する厚生労働省の取り組みを教えてください。
2015年から選定が始まった「健康経営銘柄」や、現在ガイドライン策定中の「健康投資」は主に経済産業省の管轄ですが、当然ながら厚生労働省ではそれよりはるか前の約20年前から、急速な高齢化や疾病構造の変化に対応した健康施策が求めらる、として様々な施策を打ってきました。
本日お話しする「データヘルス」の概念は保険団体だけでなく企業側の注目も集めやすかったため、のちに経済産業省主導で健康経営の概念が普及する際の下地となり、さらに現在の「コラボヘルス」政策へと繋げやすくなった、と考えると良いのではないでしょうか。
今では経済産業省と厚生労働省の間での人事交流も行われつつありますので、今後、更に両省のコラボレーションが推進されていくと思われます。
健康日本21
21世紀を見据え、国民の健康維持・増進の重要性が高まる中、厚生労働省の主導で「健康日本21」の策定(2000年)や健康増進法の施行(2002年)、特定健診・特定保健指導の導入(2008年)、「健康日本21(第二次)」(2013年)のスタートなど、国民の一人ひとりの健康づくりを視点に据えた、様々な取組みが段階的に進められていました。
日本再興戦略とデータヘルス計画
また、第2次安倍内閣において、2013年6月に閣議決定された成長戦略「日本再興戦略」では、国内約1400の、全ての健康保険組合に対してレセプト(診療報酬明細書)や健診データの分析に基づくデータヘルス計画の作成・公表、事業実施、評価などの取組みが求められました。
さらに上記方針を踏まえ、厚生労働省は2014年3月に保健事業の実施指針を改正し、また2015年度からは、第1期データヘルス計画が始まり、各保険者が実際にPDCAサイクルを回しながら保健事業を実施してきました。
データヘルス計画とは、健康保険組合等が保有するレセプトや特定健診・特定保健指導など、加入者の健康データを活用・分析し、個々の状況に応じた保健指導や効果的な予防・健康づくりを通じて疾病予防、重症化予防につなげるものです。
これら厚生労働省の政策と歩調を合わせるように、経済産業省は2014年4月に企業の「健康経営ガイドブック」を公表しています。
また、2018年度からは第2期データヘルス計画が始まっています。「データヘルス・ポータルサイト」を活用した計画の作成など、第1期からの変更点があり、これらを反映した「データヘルス計画 作成の手引き(改訂版)」も公表されています。
健康保険組合と企業の一体取組が「コラボヘルス」
厚生労働省は「データヘルス」の取組みを、2015 年度当初から、経済産業省が推進する「健康経営」と、省庁の垣根を越えて"車の両輪" として推進してきました。
2016年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2016(骨太方針2016)」において「企業による健康経営の取組とデータヘルスとの更なる連携を図る」ことが推進されていたように、健康保険組合等が実施する「データヘルス」と、企業が取り組む「健康経営」は、当初から健康保険組合等と企業が一体で取り組むこと(コラボヘルス)が重要視されていたのです。
健康経営の実効性を高め、積極的に推進していくためには、企業と健康保険組合など保険者が連携し、データヘルスと一体的に推進することが重要で、相乗効果が期待されるところです。
【経済産業省の取組みについて】
―――いよいよ経済産業省の取り組みについて伺います。
はい、まずは前回のおさらいから。
時系列で言うと、厚生労働省の政策として「健康日本21」(2000年)、第2次安倍内閣「日本再興戦略」の成長戦略にも位置づけられた「データヘルス計画」(2013年)が続きました。
対する経済産業省は「企業の健康経営ガイドブック」を2014年に公表、2015年から東京証券取引所と一緒に「健康経営銘柄」、続いて2017年からは「健康経営優良法人」の選定、と進めてきました。
特に「健康経営銘柄」は、東京証券取引所に上場している企業の中から健康経営の取組みが特に優れた企業を選定し、長期的視点での企業価値向上を重視する投資家にとって魅力ある投資対象として公表することで、企業における健康経営の取組みの促進を目指すものとして大きな注目を集めました。
続いて厚生労働省はそれらと歩調を合わせ、2016年の政府「骨太方針」において「企業による健康経営の取組とデータヘルスとの更なる連携を図る」とされたコラボヘルスの考え方を体系化し、翌2017年に「コラボヘルスガイドライン」を作成しています。
健康経営から健康投資へ
健康経営が一定の広がりを獲得した、と見た経済産業省は、2019年から次の方向性を示しています。
それが「健康投資管理会計ガイドライン」の策定(2020年6月公表)で、「企業が健康経営を効果的に実施し、資本市場をはじめとした様々な市場と対話するための枠組みを示す」と謳っています。
つまり、各企業は、単に社員の義務的な健康管理を行うだけでなく、企業の経営課題としての労働生産性向上といった課題解決のために、社員の健康の保持・増進に向けた取組を主体的に実行し、企業内でPDCAサイクルを回すこと、及びその取組を外部へ発信することが重要となりました。
これまでは、経済産業省が音頭を取り、健康経営の取組の方向性についてガイドブックの作成や顕彰制度などを通じて示してきたけれど、今後は各企業が主体的に取り組む必要があり、その評価を株式市場に問いなさい、ということです。
管理会計の手法による「見える化」が求められている
ガイドラインでは、企業が社員のためにそれぞれ創意工夫して自社の健康経営をより継続的かつ効率的・効果的に実施するための、内部管理手法が示され、かつ取組状況について各企業が市場などの外部と対話する際の共通言語が整理された、と理解して良いと思います。
本ガイドラインでは、管理会計の手法により、健康経営に要する費用とその活動によって得られる効果を認識するために、量的・金銭的指標を用います。
健康の定義は幅広いものであり、量的・金銭的指標だけでその全てを表しきることはできないものの、それらを「見える化」をすることで、個人も組織も健康を増進するための合理的な判断や行動をとる一助となります。また、「見える化」することで、社員・事業主・地域社会・株主等の異なる立場のステークホルダーが、健康について共通の理解や認識を醸成し、対話することも可能となるでしょう。
健康投資管理会計ガイドラインは主に、健康経営に取り組み始めていて、効果分析や評価方法を模索している企業による活用が想定されています。企業はこのガイドラインを用いて健康投資管理会計を作成することで、企業価値の向上を図ることができるでしょう。
(⇒ 後編へ続く)